昨年9月から開校した「食の熱中小学校」ですが、あっという間に第2期後半に入っています。生徒の皆さんは毎月素晴らしい先生方の講義を聞き、日本中にツアーに出かけて実際に食体験を実践されていることと思います。私たちはすでに第3期の準備を進めていますが、豊饒な食体験ができる新しい地方へのツアーも続々登場する予定です。もちろん先生方の講義も充実しています。第3期も一緒に楽しみましょう! 校長 柏原光太郎
【第3期生】募集開始! *ご友人、お知りあいへも是非ご案内ください* 第3期:2024年10月~2025年3月 講師紹介と日程は→こちらから
募集要項と申し込みは→こちらから
【ご案内】食の熱中小学校特別企画
11月9日:高台庭園での Garden Party 文化祭開催! 詳細及びお申込みは→こちらから

座学:7月31日(水)19時 3X3 Lab Future
講師:立花哲也先生 ヴィソン多気(株) 代表取締役
テーマ:「食とDXによる地方創成と地域課題を解決のための新しいアプローチ」
多気町は、人口1万5000人もいない三重県の小さな町です。そしてVISONは食をテーマにした、東京ドーム20個分位の敷地を使ったすごく大きい施設です。私は今50歳です。絵を描くのが好きで芸大に行きたかったのですがなかなか入れてもらえず(笑)、浪人しながら建設会社のアルバイトをしていたらそれが楽しくて現場監督になり、どんどん仕事を覚えて20歳の時に建設会社を始めました。自分1人で始めて3人、5人、10人と増え、いろんなチャレンジをしていく中で片岡温泉という温泉宿と出会ってアクアイグニスを作り、今VISON、ということでやってきています。私が観光事業に入るきっかけとなった片岡温泉は、どこにでもある地方の、跡継ぎのいない古い温泉宿でした。その片岡温泉を引き継いだのですが、建設中の新名神高速道路と場所が重なるとわかり移転しなければならなくなりました。それなら思い切って他にないような施設を作ってみようと思い、アクアイグニスをオープンさせました。小野町という三重県の北西にある町で、12年前のことですが複合温泉だけでなく食をテーマにしました。10年前、15年前はどこに行っても山に行ってもお刺身が出てくる。同じような鍋コースしか出てこないような状況がずっと続いていたと思うんですが、思い切ってそのような温泉街の食を変えようということで菰野町の食材を使ってオープンしました。

その後、滋賀の近江八幡のクラブハリエさんを見学してスイーツは平日でも人が来ることを知って、辻口パティシエにお願いを始めました。やっと 7回目ぐらいに昼ご飯でも食べましょうかとなり、企画を話したらそれ面白いね。じゃあやるよ、とトントン拍子に話が進みました。そこからさらにいろいろなパティシエさんとの関係との広がりも始まりました。
食も大事ですが、デザインも大事です。建築やデザインにこだわって作ると、来た方はたくさん写真を撮ってくれる。ちょうどSNSが始まった頃だったのですが、その写真をアップしてくれる。これですごく広まったと実感しました。菰野町は200万人が来るような町になりまして、今や全国あちこちからうちの町でもできないかとお声がけをいただき、その第1号としてオープンしたのが、同じ三重県の多気町と言う町のVisonです。美しい村でヴィソン、薬草の町として芍薬の花がモチーフになっています。創業が三重のイオンさんや主力工場があるロート製薬さん。そのほか十数社のいろいろな企業からの出資を受けて、三重故郷創生プロジェクトという合同会社を作って、3年前の7月、コロナの真っ最中にオープンしました。高速道路にも全国初の民間施設に直結するスマートインターができ、「多気ヴィソンスマートIC」という名前をつけていただきました。
一緒に食文化を残すことをやっていただけませんかということでお誘いして、本当に多くの企業に応援をいただいています。お味噌の蔵之屋さんや伊勢醤油本舗さん、井村屋さんには和菓子だけでなく酒蔵もやっていただいています。ロート製薬さんは薬草の研究所がありホテルには薬草のお風呂もあります。お酢だけやお醤油だけのミュージアム、お酢もあればお米も海苔も、マルシェに行けばお魚もあります。大ホールがあるのでいろんなイベントもできます。柏原校長先生にお世話になって世界料理学会も開催しました。この夏には高校生のガストロノミー甲子園を開催する予定です。
食に関して日本一和食が揃っている場所ということは世界一和食が揃っている場所、を目指してやっています。
日本一の食の場所になりたければ、世界とも付き合い注目される施設になりたい、それにはサンセバスチャンに学ぼうと、とにかく姉妹都市を結びたくてアタックしました。最初は、何回も断られるのでなぜかと思ったらすでに日本のいろいろな町から十数件もそんなオファーが来ている。でも諦められず、あの手この手でアポイントを取ったところ、向こうの市長さんが20分だけ会ってくれるということで、資料を見せてこんな取り組みをやりたいんだと説明して20分が30分、40分と過ぎ、50分になっり、2メートルぐらいのすごく背の高いその市長さんがちょっと怖い顔をされてこれは怒られると思ったら、お前たちもうこれで帰ってくれよな、ってサインしてくれました。その後その市長さんが3ヶ月後に日本に来てくださって、ちょっとニュースにもなりました。

サンセバスシチャンが好きになった理由は、食がおいしいだけでなく、町の人々の人柄がとても良い、優しいんです。例えばバルに行って食べ歩きするんですけどピンチョスを食べてお酒を飲んでさて会計はというと申告制でいくらでもごまかせてしまう。それで大丈夫なのかって聞いたら、そんな恥ずかしいやつはうちの町にいないんだとこういう具合です。市長さんもそうですけどすごく人が良くて治安も良いですし、優しい方々で、スペインと違ってずっとスペインから独立しようとしたバスク地方、そういったところも魅力的です。デザインもすごく大事にしていて、例えばセバスチャン通りには、デザイナーの皆川晃さんの、テキスタイルで知られるミナ ペルホネンのお店があります。ほかにもくるみの木さんだったり、D&DEPARTMENTさんなどにもお店も出していただいたり、計画段階からそういった方々にも関わっていただくことで、施設自体のコンセプトや建物のあり方を協議しながら作り上げてきました。
産直市場は、昔の市場は木箱で売っていて量り売りしていて食べ歩きもできたけど、今の産直市場はスーパーみたいになってしまっている。そうでないのをやりたいなと思い、パリの市場あたりをイメージして、昔の市場を復活させたのがマルシェ ヴィソンです。大きな屋根の下にいろいろな店が入っている。外部空間になっています。
農園はキューピーさんが応援してくれていて、オーガニックで自然農法でやっています。農園の真ん中にレストランがあります。子供の遊びもできるよう、ゲームやプラスチックではなくて木で遊ぶことを実践しています。昔からだんだんなくなってきたものを残そうということで70店舗のお店にお願いして出ていただいています。
ここから少し地方創生やDXの話になります。1つの地域だけが良くなればいいとい考えではなくて初めから開放する。いろいろなことをいろんな方に関わっていただいて実現するプラットフォームを目指し、強みを増やそう、味方を増やそう、応援していただく方を増やそうという考えでやってきました。地域のつながりをここで垣根を越えて取り組む。三重交通さんの事例ですが、バス路線がオープンする前は、熊野ヴィソンは東京とか名古屋と、また伊勢田や鳥羽、松坂とだけつながり、それぞれは分断していてつながっていなかった。これを三重交通さんと協議してヴィソンをプラットホーム化したら全部つながるようになりました。熊野から伊勢や松坂も、東京、名古屋からも行けるようになったということです。そしてもう一つこだわっているのがSDGsです。地方の商業施設は基本的に定期借地契約で、大体20, 30年、延長しても40年で更地にして返す契約になっています。つまり終わることが前提でやっているので、建物もコストを考えて、よくても対応年数が30、40年の建物しか立てません。一方で木造にこだわったのは。伊勢神宮式年遷宮で1600年以上、神社仏閣が100年、200年、400年と続いているように木造で作ることで山野林業の方と地域の大工さんが修繕しながら継続し続けることができるじゃないかという、そういう意味のサステナブルを、メーカーさんと一緒になってここで残すということをやっていきましょう、といって実現しました。

もう一つ、デジタルDXに取り組んでいます。それも多気町だけではなく隣町の大台町、明和町、度会町、紀北町という、ほとんど人口1万人ほどしかいない小さい町が集まって一緒にやる。デジタル庁に申請して採択いただいてもう2年、3年やっています。人口の少ない場所でなぜそんなにDXを頑張るのと言われながらも、遠くの商圏からも来ていただくには、専門性も含めて他にないもの、三重発ではなく日本初、日本一といったものを作らないといけないし、そうせざるを得ませんでした。地域の人にも少しでも一緒になっていただけるためにもこのような大きな開発をしましたが、全く反対されませんでした。初めからコンセプトをもって話ができたのでよかったのかなと思っております。
自動運転や遠隔診療、デジタル通貨やドローンといった思い切った構想も出ました。 モビリティー道路を作って、今自動運転で3台走っています。
遠隔診療の会社のMRTさんは、Web上に8万人のドクターがいらっしゃる。そのクリニックがヴィソンホテルにも入っています。多気町のお医者さんは今3人だけですが、ここに来れば8万人のドクターとつながります。専門医に時間的に合えばいつでも診ていただける、それが叶うのが遠隔診療です。こういう小さな町のお困りごとに対応できるようになっていければとデジタル田園都市構想の補助金もいただいて取り組んでいます。それからデジタル通貨ですが、このパスポートで買い物できたり町の情報を手にいれたりといろいろできるのですが、重要なのが決済です。皆さんよくPASMOやPayPayでピピピ、で支払いますよね。でも例えば多気町のお店でピピピすると三重の我々は東京に手数料が取られてしまうんです。しかも誰がどこでお金を使ったかという情報も我々三重の事業者はわからない、というのが現状です。それをなんとか少しでも食い止めたくてやっているのがこの地域通貨です。
あと、ホテル予約も皆さんネット予約でポチっとされますけど、あれが大体の10%取られてしまいます。そうするとやっと残る10%がそのサイト手数料で取られてしまうので、それもやはり地方で持つべきじゃないかと言うことで、作ろうとしています。
そんなことをいろいろとやっていたら昨年デジタル担当大臣さんがお越しになり、今日は岸田総理が来ていただきました。面白い取り組みだと非常に喜んでいただきました。自動運転の車に乗って、岸田総理と5つの町の町長さんと三重の知事さんとでデジタル都市宣言っていうのをしてきました。そういった大きな取り組みをヴィソンと、アクアイグニスと、湯の山素粋居と言うオーベルジュで実現したいです。

仙台では、震災で全部流されてしまった直後に、市役所が所有する土地の賑わいを民間と作れないかと言うことで仙台市の公募で地元の建設会社さん、ホテルレストランの会社さんと一緒にアクアイグニス仙台を2年前にオープンしました。建物が高く木造でもなく津波が来ても大丈夫ということで避難場所になっています。福井県の永平寺では、黒龍酒造さんのお酒を核に福井を中心とした北陸の食や文化を伝える複合施設「ESHIKOTO」の隣に連携したオーベルジュを作りました。ミシュラン福井を獲りました和食屋さんに移転していただきオーベルジュを今建設中で、今年の蟹が解禁される11月2 5日にオープンする予定です。
こんなふうに奮闘していますが、やってきて、出店経験がない方に出店いただけるよう、また大企業さんも含め前例がないことに出資していただけるよう説得するのは本当に苦労しました。できないこともいっぱいありましたが、応援いただいたところからは皆さん、何とかしてやろうよ、やらないといけないよね、と情熱を持って言ってくださった。それが非常にありがたかったです。


今後の現地実習のスケジュール
*価格、日程など変更になる場合もございます。最新情報は下記webにてご案内しております。
******************************************************
① 福井県坂井市 2024年9月20日(金)~9月22日(日) 2泊3日 豊穣のめぐみ食材魅力ツアー
② 高知県須崎市・中土佐町・土佐市・仁淀川町 2024年9月21日(土)〜23日(月)2泊3日 ローカルな食文化と魚に出逢う「どっぷり高知旅」第2弾!
③ 三重県伊勢市・多気町 2024年9月27日(金)〜9月28日(土) 1泊2日 三重県多気町農村ワンダーツアーごちそう留学「秋編」
④ 富山県魚津市2024年11月22日(金)~24日(土) 2泊3日 11月下旬は、ぶり・カニをはじめとした豊富な食材、味噌の寒仕込み、昆布養殖など、富山・魚津の豊富な魅力が出揃うベストタイミング。稀な地形が農林水産物にどのような特徴をもたらしているのか。山や海の恵みを味わい、熱い職人の方々から食文化や歴史を学ぶツアーです。
*********************************************
事務局より:
昨今、各メディアで日本の食文化が扱われるケースが多いと思いませんか?10年前、2013年12月4日、「和食」が、ユネスコの人類の無形文化遺産に登録されたことも背景にあると思います。しかし、日本の食文化は和食に限らず、世界中のあらゆる食が楽しめるというころも高く評価されていると思います。これは日本の財産であり、国際競争力のみなもとでもあるのではないでしょうか。
食の熱中プログラムでの様々なカリキュラムを通じて、このことを再認識し、自ら取り組み、楽しみ、そして発信していくコンテンツと熱意が生まれ続けていってほしいですね。

「熱中通信第4号」発行:食の熱中小学校事務局(一般社団法人熱中学園内)
公式サイト:https://shoku-no-necchu.com/
Mail to:hello@shoku-no-necchu.com
