第1章 不老ふ死温泉で10周年目の ‘ヨガレッチ’

 今からちょうど10年前の夏に ‘ヨガレッチ’ を始めて絶え間なく毎日継続してきた。
 30分の足指回しと、30分のヨガとストレッチを組み合わせた自己流朝の時間を出張先でも続けてきた。
 それぞれの足指を引っ張る、右回し、左回しをそれぞれ100回がベースになっていて、夕方はその6割くらいの、ダブルコースをやる日も多い。大学時代に学んだ ‘辺境の理論’ ― 次の時代はその時代の辺境の地、僻地から生まれる。
 一番血流が届きにくい、辺境の足の指を活性化すれば、全身に良い影響があり全体が元気になる。人の体でも日本国でもそれは同じだという信念で地方にエネルギーも投入してきた。
 今は30分かけてやっている足指回しが、いずれ寝たきりになっても1日かけてできればいいと思い、継続することで私の生きている物差しとなったと言い聞かせている。やがて回す時間が長くなって、いずれできなくなって、さよなら、という生命のメジャーだ。
 夜早く目覚めてしまったときにはこれを黙々とやると二度寝がスムーズにできる。
 横たわっていると、自然に腹式呼吸になっている。そして足と手の先が少しピリピリして、ああ、細胞分裂しているな、となにか納得する。
 しかし不思議なのは、手のピリピリ感の方が大きいことだ。
 最近になって、足指回しは同時に手の指にも、いや足指よりも多く刺激を与えているのだと気が付いた。指が不自由になってはできないことだから、手がより重要なのだ。そして手先の運動は脳の刺激にもなるというではないか。
 ワイフと2人の孫が鉄道旅で秋田、青森に行く予定が孫の一人が行けなくなって急遽参加した。その不老ふ死温泉で10年目のヨガレッチをやることになった。
 早朝、名物の海沿いの露天風呂に入りながら荒海を眺めていると、私より一回り体が大きい孫が隣に入ってきた。
 不老ふ死温泉の沖にはごつごつした岩が海岸に沿うように露出していて日本海の激しい風浪を打ち消し、露天風呂の手前には優しい波が寄せている。
「お前さんが高校生活を送れるのもお父さんやお母さんがあの岩みたいに荒波を消しているんだよ」とつぶやいたが、風の音で聞こえなかったようだ。
 海鳥が餌を求めて、その激しい岩と波の間を通り過ぎてゆく。 


まきりかさんにお世話になって、『老いてからでは遅すぎる』の出版から2年半が経過しました。
その後77歳の誕生日までにと77人のお世話になっている皆様のビデオインタビューを
このOFFICE KOLOBOCL のWebに1年間連載しました。
これからしばらくは、それらを読み返しながら、補足のエッセイを書いてみようと思います。

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