食熱通信 vol.4

 4月に開講した食の熱中小学校は早くも前半終了目前です。現地ツアーはすでに7ツアーが実施済み、また今月20日(木)には「食の熱中小学校美食倶楽部」という課外活動も始まりました。「なぜ食の熱中小学校に入学したんですか?」という質問も、同じ釜でメシを作って食べる場だと口にしやすく、気さくにお話しくださるのも楽しかったです。今後に役立てますので、お会いできなかった方はぜひ次の授業で聞かせてください。                                                         教頭 綛谷 久美

座学:5月29日(水)19時   3X3 Lab Futureにて

講師:松田智生 丸の内プラチナ大学副学長

テーマ:「食の逆参勤交代が日本を変える」           

私は地域活性化やアクティブシニアの専門家として国や自治体、企業のお手伝いをしています。食の熱中小学校は、代表理事の堀田さんのすごい巻き込み力で関わることになりました。今日は、我々はどう食を通じて日本を元気にするか、そして自分自身も元気になるか、というお話をします。

大事なキーワードがいくつかあり、まず1つ目は「縁と運と恩」です。世の中は、良い縁が良い運をもたらし、そしてその運に対して恩返しをするのが大切ということです。食の熱中小学校で良い縁が広がり、皆様は良い運がもたらされ、そには恩返し、つまり現地に行き、消費することです。
 次に「コミュニティ」というキーワード。食の熱中のコミュニティが大事です。コミュニティはつまり仲間ですね。授業で会った知らない人同士が互いに笑顔を交わして仲良くなり仲間になればいいなと思っています。

皆さんこの数字をご存じですか?「29%」。これは日本の高齢化率で、人口に占める65歳以上の人の割合です。日本は世界で一番。「80万人」は、日本における年間の人口減少数です。山梨県や佐賀県の人口が約80万人であり、毎年ひとつの県がなくなっているのが日本の実情です。この高齢化と人口減少という課題を解決する切り札になるのが、今日お話しする逆参勤交代です。これは江戸の参勤交代とは反対に期間限定型で地方に滞在することです。そして地域の担い手になり課題解決に参加し、特に食分野では消費者や生産者やインフルエンサーになるということです。冒頭申し上げた食の分野での縁と運と恩を逆参勤交代で広げていくのです。

参勤交代は、1630年頃、三代将軍の徳川家光の頃に制度化されました。たとえば江戸の加賀藩邸には約3千人が住み、江戸は越境学習の場でした。逆参勤交代では、都市から地域に人が流れ、地域で食を学び、体験し、地域に消費者や担い手が増えるのです。私は2017年から提唱し、これまで北海道から九州まで、人口数千人の町から数十万の町まで全国20自治体で逆参勤交代を実施しました。そのプラットフォームが丸の内プラチナ大学という市民大学で、学長は元東大総長の小宮山宏さんで、私は副学長ち逆参勤交代コースの講師をしています。生徒は20-60代の学生、社会人、シニアが集います。東京講座では自治体の市長や町長が街の魅力や課題、逆参勤交代への期待を報告し、その後二泊三日のトライアル逆参勤交代を行います。昨年は北海道乙部町、長野県諏訪市、新潟県妙高市、高知県須崎市で実施しました。地域のキーパーソンと交流する地域の魅力を発見の旅です。

逆参勤交代で大事なのは、最後に市長や町長向けに、自分が何を貢献できるかをプレゼンする事です。ルールは一つだけ、“私”を主語にすること。あなたの町はこうすべきだ、ではなく、“私”が主体的になって何をするかを訴えます。小諸市を訪問した女性社員は、自分の会社の社員食堂で、小諸市長を呼んで小諸のワインや日本酒、ジビエ料理の小諸イベントを開催しました。また私は高知大学の客員教授を長くやっていて、高知県須崎市での逆参勤交代では、地元の須崎総合高校と高知大学の学生の街づくりに参画していることを学びました。慶應SFCの帰国子女の学生は、須崎市にはインバウンド向けの英語でのコンテンツがないことを発見して、須崎市の食の魅力を中心とした英語ビデオを自ら作成しました。熊本の南阿蘇村では、地元の中学生との交流をしましたが、我々がよそ者から見た町の良さや復興のあり方を考えると子供たちの目がキラキラしてくる。被災地や過疎地では子供たちの自己否定感が高い傾向があり、故郷を出て東京に行きたいと言う。そこで逆参勤交代のヨソモノが、街の魅力を語り活性化のアイディアを討議すると子供たちの自己肯定が高まるんです。奄美の徳之島では高校生と「働く論」やキャリア勉強会をしました。

そこで学ぶのは、実は訪問した我々なんです。福沢諭吉が「半学半教」という言葉を残していますが、地方に行った我々が偉そうに教えるのでななく、地域を学び、。そして教えることもある、ということです。

逆参勤交代の本質は何かというと、「普段行かない場所に行って、普段出会わない人と交流して、普段しない体験をして、自ら主体的に貢献する中で、生きる力が湧いてくる」ということなんです。

都市と地方の関係人口の課題は、地域と関わろうとする人は、意識の高い人やITベンチャー企業の方々のスモール・ボリュームに留まっていることです。このスモール・ボリュームを地方の街が奪い合っているのは不毛です。大切なのはマスボリュームを動かすことです。そして受動的参加者が宝の山だと思っています。受動的参加者とは、「上司から言われて渋々来た」、「友人から誘われて何となく来た」という層です。興味はあってもなかなか一歩踏み出せないようなマスボリュームを、逆参勤交代という制度で動かすのです。たとえば東京の大手町・丸の内・有楽町地区は、大企業の本社が135もあって就労人口が35万人もいます。このマスボリュームを動かそうということです。

これまで参加した人たちのアンケートを見ると、会社員や公務員が約60%、個人事業主等約25%、大学生が約15%で、年代では40-50代が47%、20-30代が約30%でした。そして満足度は97%。期待以上が70%で高い評価でした。評価されている点は、生産者のような地域のキーパーソンとの交流でした。

絶景とグルメと温泉はどこでもありますが、再訪する理由は、「あの人のもう一度会いたい」だと思います。そして逆参勤交代で、地域を再度訪問した人が約30%、ふるさと納税を実施した人は約20%でした。さらに、5名が兼業副業・ボランティアを開始し、ロングステイや一時居住は2名が開始しました。今後、有望な逆参勤交代モデルは地方での兼業副業と思います。

人的資本とは自社の社員の人材育成に具体的にどのように貢献をしているかを株主や投資家に開示する義務があり、地域での越境学習が人材育成研修として有望だと考えています。

あともう一つのアイデアはポイントや地域通貨制度です。例えば熱中ポイントを作って、地域の農家でちょっと働いたり、子どもたちに教えたりして、50時間貢献したら50,000円の地域通貨に換えられる、そんな熱中地域通貨を全国に作ってどうでしょうか?

また我々のような首都圏の関係人口が地域に行く以外に、地元の高校を卒業して、今都市部に住んでいる卒業生こそ地域の資産と思うのです。例えば卒業20年の38歳で故郷への逆参勤交代です。子育てはやはり故郷が良い、故郷の食農のために何か貢献したい、そうした気づきを制度で起こすのです。

こうしたアイデアをこれから熱中でどんどん出していってはどうでしょうか。

ただ、こういうことを言うと、いろいろな壁にぶち当たります。1番目はできない理由ばかり並べる”否定語批評家症候群、”。否定するだけでなく、対案を出すべきです。2番目は勘違い彼氏症候群。1回訪問しただけで、もう付き合っている気になっていて、都市部の方も地元の方も、何かしてくれるだろうという過剰な期待と勝手な思い込みをするケースです。3番目は居酒屋弁士症候群。授業では質問はせずに、終わった後の飲み屋では雄弁になる。神田や新橋によくそういうおじさんを見ます(笑)。

こうした困った症候群は余談ではありますが、実は新たな挑戦を阻む本質的な問題でもあります。食の熱中小学校では、こうした壁を壊していきましょう。

食の逆参勤交代について、私たちが何で貢献できるか考えてみましょう。ふるさと納税もいいし買い物でも副業でもいいんです。「私主語」で自ら主体的に動くことです。

今日強調したいことは、人口が毎年80万人も減少する今の日本で大事なのは、人材の争奪ではなく共有です。逆参勤交代とは人材の共有であり、普段行かない場所で、普段会わない人に会い、普段しないことをすることが自分の中に良い化学反応を起こします。そして、「ありがとう」「おかげさまで」と言われると、貢献要求や承認要求が満たされる。最後は、「一歩踏み出す勇気」です。それは現地ツアーに行きましょうということです。僕は6月15日-16日の宮崎県小林市に行く予定です。

今日話してきた、人生は縁と運と恩の組合せであり、食の逆参勤交代で日本を元気にするというのはなかなか一人では難しいです。しかし、今日ここに集まった多くの方が一歩を踏み出せば、地域にとって、日本にとって大きな一歩になると思います。今日私が話したことが皆さんの新しい気づきやこれからの一歩を踏み出すきっかけになれば、講演者としてこれほど嬉しいことはありません。 ご清聴ありがとうございました。

Tour4: 長野県小諸市  

引率:柏原光太郎校長

2024年5月25日(土)~5月26日(日) 1泊2日

世界でも希少性の高さで注目の小諸産ワインが一同に集うワインイベント『KOMORO WAINE DAYS』に参加。
また江戸時代、北国街道小諸宿の宿場町として大いに賑わった城下町小諸市は、明治時代以降は商都として栄え、伝統を継承する老舗が多く残っています。
今回、人気の発酵食品である日本酒の呑み比べと、味噌仕込みを歴史ある老舗や建物で体験し、小諸の発酵文化や歴史の魅力を再発見していただきました。

参加者の声:三上直子さん

 「小諸産ワインが集うKOMORO WINE DAYSと発酵文化を楽しむツアー」に参加してまいりました。3月から入学したばかりでいきなりのツアー参加で大丈夫かな、と内心ドキドキでしたが、結果、参加して本当によかったです。柏原校長をはじめとして素晴らしい参加者の方々、2日間のツアーを全力でサポートしてくださったこもろ観光局の森田様をはじめとする皆様のおかげで、とても楽しく学習することができました。

・事前学習  リーデル青山本店のゴージャスな空間で、ブドウ品種ごとのリーデルの素晴らしいグラスで、マンズワインのプレミアムワイン「ソラリス」を試飲しました。グラスごとに異なるワインの味わいや、変化を体験。そして、リーデルの携帯ケース付きの素敵なワイングラスが一人ひとりに配られ、このグラスを持参してKOMORO WINEDAYSに参加するとうかがい、旅への期待が高まりました。

DAY1: 1日目、 ワインツアー日和の素晴らしいお天気に恵まれました。まずは小諸を知ることからスタートしました。小諸城址にある懐古園を訪れ、ツアーガイドの清水さんの地元愛に溢れる説明うかがいながら、小諸の歴史を感じさせる城壁や、遠く千曲川を臨む展望台など巡りました。

 その後はKOMORO WINEDAYSに参加。18のワイナリーやワインに合う地元のチーズやお惣菜のお店が並びます。それぞれ好みのワインをテイスティングしつつ、地元のレストランで準備いただいた美味しいお料理に舌鼓をうちました。小諸市の小泉市長、生産者のみなさんに温かく迎えていただき、小諸やワインなどの生産物についての魅力の話をうかがい、ますます小諸の街に親しみがわきました。

・DAY2: 2日目も昨日に続いて小諸市内巡りからスタートです。小諸の街は、宿場町の面影を残す建物やお庭がとても良い状態で保たれていて、道端には季節の花がさりげなく咲いています。島崎藤村由来の場所や、徳川家ゆかりの歴史的建造物など歩いて回りました。

 その後、山吹味噌さんにて味噌づくりの歴史や発酵食品についての講義を受け、味噌づくりを体験。仕込んだ味噌は、今自宅にて熟成中で秋ごろにいただくことができるそうです。

ランチタイムに有名な丁子屋さんで今が旬の山菜天ぷらそばをいただいたあと、小諸唯一の酒蔵「大塚酒造」さんの「浅間嶽」を飲み比べました。説明してくださったのは杜氏の大塚さん。昨今の温暖化による日本酒米の変化への対応の試行錯誤や創意工夫についてお話いただきました。次回は、この日本酒と地元のお料理をゆっくりといただきたいと思いました。

・最後に:ツアーの実習を通じて、日頃の旅行では味わえないたくさんの学びをいただき、充実した2日間を過ごすことができました。企画段階から当日まで汗かき準備いただいた皆様のおかげと感謝しております。今後は、微力ながら今回出会ったワインをエピソードともにSNSや周囲に発信していくことでご恩返ししたいと思います。

・おまけ:小諸市では現在期間限定で街中をEV3輪カートが疾走しています。この「スマートカートegg」に乗り、爽やかな風を感じつつ快適に街を回ることができました。

***********************************************

Tour5: 新潟県糸魚川市・富山県氷見市・高岡市  

引率:柏原光太郎校長 

2024年6月6日(木)〜6月8日(土) 2泊3日

 富山湾の北端に位置する新潟県糸魚川市で、海洋資源循環を実践する県立海洋高校を視察したり、日本有数のベニズワイガニ漁獲量を誇る、能生漁港を訪れました。夕食は日本ガストロノミーアワードで特別優秀賞を受賞した「murirミュリール」でお米のフルコースを味わいました。糸魚川はブラタモリでも知られる、フォッサマグナの大地。地質学の研究者たちと酒造をめぐり「ドメーヌとはなにか」を考えていただきました。2日目に新幹線で富山県へ移動し、最初に氷見市を訪れ、能登半島地震の爪痕を視察しました。
メディアなどにも一切でない、隠れ家レストランで夕食。翌日には高岡市の国宝瑞龍寺で坐禅・朝粥を体験。国宝寺院ならではの繊細な匠の技・美術工芸品を目にすることができました。ものづくりの街・高岡ならではのものづくり体験も行っていただきました。更に午後には、瑞龍寺で行われた「天地人」による「能登半島地震の復興を祈るコンサート」に参加いただきました。

参加者の声:吉田和樹さん

6/6~8の3日間で北陸を巡る現地実習ツアーへ参加してきました。「なぜ富山湾は食を豊かにするのか」というテーマを読み解いていくという建前で、とにかく食べて呑んで、現地の方とも一緒に全員が楽しむ最高の旅となりました。

最初に訪れた糸魚川はフォッサマグナの境界線に位置し、火山活動が活発で水を通しやすい石灰岩の地層が多く、少ない平野で豊富な水のおかげで農業が盛んです。さらに、水深が深い富山湾と北アルプスに挟まれて高低差が大きく、近距離で多くの種類の魚や山菜を収穫できる食材に恵まれた地域なのです。

初日から感動の連続で、まずは糸魚川わさび園へ。豊富な地下水で育った「ひすいわさび」は、ミネラル豊富な味わいで、その名の通り宝石のような美しさ。ランチでは「樹(いつき)」を訪れ、地元で採れた新鮮な海鮮丼とベニズワイガニを噛みしめ、海鮮の豊かさに驚かされました。

次に向かった「マリーンドリーム能生」は年間80万人が訪れる道の駅で、新潟県立海洋高等学校が開発した新商品販売で新しい地域創生モデルを学びました。能生漁港では昼セリ見学ができる珍しい体験をし、富山湾の新鮮な魚介類に圧倒されました。地形的に鉱物の種類の多いヒスイ海岸ではヒスイを探し、稀に見つかる何百万円モノのヒスイを探し当てる夢だけを見させていただきました。

夜は、日本ガストロノミーアワードで特別優秀賞を受賞した「mûrir ミュリール」で、富山湾へ夕日が沈む中、地産地消の食材を使った薪焼きの香ばしいフレンチの米づくりをイメージした「お米のフルコース」でいただき、至福のひと時でした。

2日目にフォッサマグナミュージアムでジオバークとして認定されている糸魚川の地質学を深掘りし、その後に渡辺酒店を訪れ、稲作から日本酒醸造まで一貫生産したテロワールを実践し、ヴィンテージ日本酒へ挑戦しているその思いに感動しました。

午後からは伝統工芸の町として知られる高岡へ移動、錫のぐい呑みを製作し、伝統的建造物群保存地区である金屋町を散策しました。ディナーは金屋町の中の古民家を改装した北陸ミュランの「茶寮和香」で、富山の海と山の幸を堪能し、作ったばかりの自作のぐい呑みで美酒に酔いしれました。高岡は北前船の中継地としての伝統を持ち、昔から豊かな食材を使った料理屋や居酒屋が本当に多い町なのです。

最終日は早朝から瑞龍寺での坐禅体験で心を整え、歴史ある個人宅で食べた朝粥茶事を食し、地元料理のレベルの高さに圧倒されました。伏木や氷見の被災地を視察した後にランチは「すし貫」へ。金沢でなく、富山湾で取れる美味しい魚を富山で食べて欲しいということで、「寿司と言えば富山」のブランディングを推進中、東京では食べられないお値段で、高いレベルの寿司が食べられてしまうのが富山なのです。最後は、瑞龍寺での能登半島地震の復興を祈るコンサートに参加、現代にアレンジされた津軽三味線のパフォーマンスは圧巻でした。

3日間にわたるツアーを通し、北陸の自然、文化、美食を現地の方たちから学び、素晴らしいガストロノミーツーリズムを体験できました。現地の方たちのおもてなしに感動の嵐、この体験を多くの人へ伝え、再訪することが私にできる何よりの恩返しとしたいと思っています。

**********************************************

Tour6:和歌山県田辺市・みなべ町 

2024年6月15日(土)~6月16日(日) 1泊2日

世界農業遺産登録の「みなべ・田辺の梅システム」について学び、紀州南高梅の収穫・調理をしました。紀州備長炭の産地も訪問させていただきました。

参加者の声:佐伯肇さん

 6月15日・16日に開催された和歌山県のツアー 「世界農業遺産みなべ・田辺梅システムを感じるツアー」に参加してまいりました。週間天気では開催両日ともに雨予報と心配していましたが、当日は二日とも傘要らず、お天気にも恵まれて大変楽しいツアーとなりました。

ところで「世界農業遺産」をご存じでしょうか。

ユネスコの「世界遺産」はご存じのとおり人類が共有すべき「顕著な普遍的価値を持つ文化財、景観、自然」といったいわゆる『不動産』が対象です。

「世界農業遺産」は「世界重要農業遺産システム」の通称で、GIAHS(ジアス)と聞けば知っているよという方もいらっしゃるでしょう。

伝統的な農業や林業・漁業によって育まれてきた土地利用技術や文化風習などを次世代への継承を図る目的で一体的に認定したものです。今回のツアーは、みなべ町~田辺市を巡り、2015年に世界農業遺産に認定されたこの土地を育んでいる様々な魅力を学ぶツアーとなりました。

紀州くちくまの熱中小学校の沖田さんの運転で、まずは田辺湾そそぐ秋津川の上流へ向かいます。両岸の山から崩落した巨岩が連なる美しい渓谷が数キロにわたり続き、山奥の紀州備長炭記念公園にたどり着きました。紀州備長炭のお話をお聞きした後は隣接する炭窯で、まさに作業中の職人さんから直接お話をうかがいました。煙が立ち上る中、紀州備長炭が生まれるリアルな現場に立ち会うことができました。

窯を見せてもらった後は、地元の新鮮な山海の味覚を紀州備長炭で豪快に楽しみます。

お手伝いくださったのは紀州くちくまの熱中小学校の生徒の皆さん、和歌山の名物めはり寿司や梅を使ったお料理、南紀の地元料理をたらふくいただきました。

再び車に乗り込み備長炭の山から開けた地を目指し下りていきます。遠くに海を臨む里山の風景、緩やかな斜面に見渡す限り梅の木が続く農地が広がります。

熟した梅の実がたわわに実る時期とのことですが、昨夏の暑さや暖冬の影響で今年は実が見当たりません。ここにも気候変動の影響を感じます。それでも地元の農家さんがツアーのために準備いただき、残っている梅の実の収穫や梅ジャムづくり等の体験が出来ました。本当に感謝です。

そして再び車に乗り込み、さらに下って最後の締めくくりは海。

陽光きらめく豊かな南紀の海を眺めながら、梅をアレンジしたお料理をいただきました。

2日間をかけて山奥から里山、川の水とともに海まで、世界農業遺産に認定されたこの土地の魅力を味わい尽くすようなツアーになりました。

しかし戻ってきて最も印象的だったのは、やはり地元の皆さんの情熱、誇り、何より今年の梅は大凶作だったのに関わらず明るくもてなしていただいた心意気。どこに行っても居心地よくて直ぐに再訪したくなる、それがこの食の熱中ツアーの一番の魅力なんだなと実感しました。

そしてこの田辺・みなべは何と羽田からJALで1時間、本当に近いのでおススメです!

**********************************************

Tour7:宮崎県小林市

引率:松田智生教頭

2024年6月15日(土)~16日(日)

飼料価格の高騰により厳しい現状にさらされている酪農や養豚の現状を学び、実際にダイワファームにてチーズ製造を体験しました。(熟成後手元に届く予定!)。宮崎こばやし熱中小学校の授業を受講し夜は生徒と共に「焼酎一貫校」に参加いただきました。

参加者の声:横山正弘さん

サラリーマンの夫と専業主婦の妻とで体験してきた小林を紹介させていただきます。
実は昨年秋のツアーに引き続き2度目の来訪になります。ついでに言ってしまうと、コースもほぼほぼ一緒でした。
それでもなお、この地に引き付けられてしまう魅力はなぜだと思われますか。

他の方たちも申し上げているとおり、やはりそこで暮らす「人」に魅了されてしまったからだと思っています。
加えておいしい料理がそこにあるとしたら、また行きたいと思うのが人情ではないでしょうか。
そんな小林をレポートさせていただきます。

行程は1泊2日になります。初日、宮崎ブーゲンビリア空港集合。ここから内陸の小林市へ車で向かいます。
小林市は宮崎県の南西部の内陸に位置しています。北東部は熊本県と隣接し、南西部では鹿児島県と隣接しています。人口は4.1万人で毎年千人程度の人口減少傾向にあります。

宮崎空港から車で約1時間移動し、小林ICを降りて間もなくすると森の中にたたずむ「地鶏の里」が現れます。森の中にコテージ風の木造小屋が5棟くらいあり、8人から10人ぐらいで貸し切り、そこで食事を楽しむことができます。
ここで小林ツアーに参加される皆さんと合流。今回は熱中こばやし原田校長とアテンドの吉谷女史との10名のツアーになりました。食の熱中小学校からは松田教頭も引率なさっています。
地鶏の里では、名古屋コーチンのコース料理。食事の締めはこだわりの卵かけご飯。お店の女将さんから、料理となった鳥の部位についての解説や食べ方の説明があり食事を開始。極上の鳥料理と地ビールに一同完食。うまい!

昼食後は「熱中こばやし」の授業に参加。当日はツアー参加者でもあった戸田夫妻が講師。料理について、人生についての講話あり。会場には地元小林高校の生徒たち20名も参加。なんでも教頭先生が熱中小の生徒さんで、教え子を誘っているとのこと。高校生たちは会場の受付や設営を手伝ったりお菓子を配ってくれました。そこは地域交流の場であり、高校生たちにとっては地域貢献のためのボランティア活動の場にもなっていました。
授業が終わり、それにしても戸田講師の語りがリアル過ぎて思春期の高校生たちには刺激が強すぎたかもなんて思いながら、近くにいた参加者の方にそのことを伺うと「今の高校生たちは失敗体験が少ないまま社会に出て行く子どもたちが多いから、ネットや書物から学ぶよりも大人が直接語り掛けるリアルワールドの方がはるかに臨場感があって良い刺激になっているのではないか」とのこと。
加えて、こんな体験は学校の授業の中でやろうとすると、なかなかできないものなので、大人の学びの場所に子どもたちを招くスタイルがあっても良いのではないかというお話しでした。小林という地域の大人たちは子どもたちのことを実に良く考えてくれているなと感動しました。

( 都市部の大人たちが日々の生活に忙殺されそれどころではないよという風に思われている方が大勢いるような気がするのは私だけでしょうか。)

この後、宿泊先のホテルに移動。夜の焼酎一貫校まで少し時間があったので、アテンドの吉谷さんと松下さんにお誘いをいただき由緒正しき狭野神社に参拝させていただきました。荘厳な杉並木を歩きながら神聖な面持ちになりました。この神社、なんでも初代神武天皇がお生まれになって建てられた神社とのこと。宮崎県は知る人ぞ知る神話の宝庫でもありました。
この後は南九州唯一の磁器専門工房である鷹山窯を訪問。ここは静かな山麓にある陶芸窯です。前回はここで絵付け体験と2頭の馬達との撮影会をやったのですが、今回は併設しているカフェで一服させていただきました。

カフェで一休みした後、我々が向かったのが焼酎一貫校です。会場は Kokoya de kobayashi (ここやっと小林)。小林駅から徒歩数分の位置にあるレストランです。
ここのオーナーシェフの地井さんは、フランスやオーストリア、スイスの日本大使公邸料理人を経験された方で、外務省公認の優秀公邸料理長の肩書をお持ちの方です。味は超絶、作品は絶品です。
今回は小林で養殖されているキャビアにちなんで、小林産のニジマスとチョウザメのカルパッチョ、キャビア添えをいただきました。
おつまみには、チロルシンケン(豚・生ハム)。これは昨年の秋に「熱中こばやし」の皆さんとで一緒に仕込んだ本物の生ハムです。実際は、ほぼほぼ、ふくどめ小牧場(鹿屋市)福留さんとダイワファーム(小林市)大窪さんのお手伝いのたまものではありましたが・・・。

ここで言う本物の意味ですが、塩蔵(塩で漬け込んで)し長期熟成させ作られた【非加熱】ハムという意味です。
日本で実際に一般に市場に出回っている生ハム製品は豚肉を味付けや保存に耐えうるための溶液に浸して【加熱】乾燥させたハムがほとんどなのだそうです。ちなみに法令上は厳密な定義がないらしく、加熱加工したものでも生ハムと表記しても、今のところ問題ありとはならないとのこと。
次に出された料理がブラン・マンジュ(冷菓)に天然すっぽんのジュレ。天然のすっぽん?これ、養殖ではなく天然だそうで、水がきれいで豊富な小林では普通に天然物のすっぽんが入手できるとのこと。雨上がりには路上をスッポンが歩いている姿を見られる場所もあると小林の方が話されていたのは驚きでした。

焼酎一貫校の後の放課後活動はスナック・ムアネージュ。宮崎県はスナック王国。人口10万人あたりのスナック店舗数が全国1位なのだそうです。そして、ここ小林市もスナックが多い街。この街だけのルールなのか定かではありませんが、一人3千円ポッキリ、飲食持込可だったようです。
23時半、これにて初日の日程が終了。

2日目。宿泊先のホテルまで、アテンドの吉谷女史に迎えにきていただき、ガハハ親父こと大窪社長の率いるダイワファームへ。

そこでは牛舎を散策しながら、元農水省畜産部長の肩書を持つ原田校長から、畜産全般のお話とダイワファームの特徴についてご案内いただきました。
ダイワファームは乳牛を20数頭有する大窪さん家族が経営している農場です。農場内にはチーズ工房と道路に面した場所に売店があります。
この農場では、牛にストレスを与えないよう飼育し、健康な牛からおいしい生乳を分けていただくことを信条としています。そのため牛に合成飼料は与えず、栄養価の高い牧草と小林のおいしい水で牛たちは育てられています。その結果、一回の搾乳量が特段多いというわけではありませんが、牛の寿命や搾乳期間が他の農場に比べると長寿とのことでした。
次に大窪社長からチーズ作りを教えていただきました。私達はチーズ工房に移動し、帽子と長靴、かっぽう着に身をまとい入室。チーズづくりは温度管理と塩分濃度が肝のようで外気温や湿度計をみながら生乳が凝固する工程について説明を受けました。
次にチーズを試食しながらトーマダイワ(セミハードタイプのチーズ、熟成期間3ヶ月)が型にはめられ形になっていく作業工程を見せていただきました。ストリングチーズ(さけるチーズ)作りを皆で行い、自分たちで作ったチーズを持ち帰えりました。
一連の作業が終了し11時になったため、私達は敷地内の売店に向かいました。売店にはチーズ工房で作られる一連のチーズたちが並んでいます。


私達のお目当てはソフトクリームでした。ダイワファームの人気を支える売店にはガハハ親父(大窪社長のこと)自慢のソフトクリームが販売されています。このソフトクリーム(300円)は地元でとても人気があり、この日が日曜日でもあったことから近所の家族連れやドライブ中のカップルたちが入れ替わりで、このソフトクリームを購入していきました。
このソフトクリーム、ダイワファームの美味しい生乳が原料になっているのはもちろんのこと、凝固剤を使わない人にやさしいソフトクリームです。そのためか店構えと商品価格に見合わない?価格を度外視した超高額アイスクリームマシンが導入されているのだそうです。これもガハハ親父のこだわりとのこと。唯一の欠点は一般のアイスクリームに比べて溶けやすいという点。早めに食べなければなりません。これは凝固剤を使っていない証でもあり仕方がありません。

次に向かったのが最終目的地である「すき酒造」。ここでお昼ご飯もいただきました。ダイワファームから更に山を登り、一山超えた先にこの蔵はあります。歩いて行ける範囲には観光名所の「ままこ滝」があり2006年に小林市と合併がなされる前までは人口約2千人の須木村(すきそん)と呼ばれていた山村地域です。
その地に焼酎づくりに適した水源を求め、伝統的な和釜を使い、隣県の鹿児島県ナンバーワン杜氏の実績を持つ牛嶋さん親子が醸し出す焼酎が美味しくないわけがありません。実際、毎年開催される宮崎県の品評会においても、連続受賞を続けており、小林市のふるさと納税の返礼品としても毎年の数百本以上の出荷があるとのこと。
ここでは牛嶋jrから、この蔵の特徴やこだわり、2代目として苦労されていること。糀づくりや蔵付き酵母、原材料である芋や栗の生産事情について伺うことができました。
最近の気候変動の影響から原材料となる芋や栗の不作が続いていること。良質な原材料の入手が困難な状況になっているとの話でした。
ちなみに栗の焼酎については、栗を特産品としている須木地区においても十分な栗を入手できないため今季の仕込みができず、向こう2年間は出荷できない状態。すでに在庫も尽き、現在、入手困難。手元に栗焼酎をお持ちの方は大変な貴重品だそうです。
また芋においても入手先や品質の良し悪しが年次差が出てしまうため、製品としての出来上がりに違いが生じること。実際、飲み比べてみると味や香りの違いに誰もが気付けるくらいの差が出てしまうとのこと。
私達もその場で、その飲み比べを体験させていただきました。試飲した方々は誰もが若手杜氏のその説明に納得していました。
なので真に焼酎好きの方々は〇〇年製の「銘柄」で買い求めになられる方も多くいらっしゃるとのことでした。

昼食は地元日本料理「おおやま」から美味しい仕出し弁当をつくっていただきました。お弁当と言っても中身は本格的な日本料亭の味。季節の煮物の入った折りとは別にうなぎと海鮮のちらしご飯、汁物が用意されました。事務局の方のご配慮で焼酎のつまみにも合う懐石料理になっていました。食事会場が焼酎蔵の敷地内ということもあり、すぐ横に焼酎の一升瓶がならび、試飲という名の飲み放題の昼食会となりました。

2日間、ドライバーをしていただいた原田校長と吉谷女史、お酒を飲むことができず申し訳ありません。
これにて1泊2日のツアー終了。宮崎空港から帰路へとなりました。

小林ツアー:まとめ

1 お水と食事が絶品。お水は宮崎の山々が天然のフィルターとなりろ過した天然水だから申し分なし。食事は食材が良いのはもちろんのこと、加えてそれに手間をかけ良質な作品として提供してくれる匠たちがそこにいること。

2 おもてなしの精神がすごい。小林市という自治体自身が関係人口づくりに力を入れており、小林市民にもその感覚がある。

3 子どもと大人たちがうまく共生している。世代間で分断されていない。子どもたちが地域の宝という日本人としてあたり前の意識が大人たちに残っている。

結論:よって、また訪れたくなる。

*********************************************************************

今後の現地実習のスケジュール

*価格、日程など変更になる場合もございます。最新情報は下記webにてご案内しております。

2024年度 現地実習ツアー情報 | 食の熱中小学校

【特別プログラム】米国シアトル

基本スケジュール:2024年6月27日(木) ~7月2日(火) 4泊6日

熱中小学校が繋ぐJapan Fair LifelongLearnsとの交流
コロナ禍が収束して再びFaceToFaceのイベント が可能になったアメリカで、日本から熱中小学校が5年振りに「Japan Fair 2024」へ出展参加します。このイベントは、米国シアトルのベルビューで開催され、日本の芸術と文化を祝う催しで、2024年で9回目を迎えます。日本とアメリカのミュージシャン、職人、コミュニティ団体、企業などが、それぞれの活動、商品、サービス、技術、日本についての知識などを、ステージでのライブパフォーマンス、体験型展示、ワークショップやブースでの展示を通じて紹介します。今回は熱中コミュニティから35名が現地を訪問します。

(株)内田洋行様のご支援で全国9か所の熱中小学校が地元をPRし物産の販売をする出展コーナー、メインステージでは「食の熱中小学校」実習ツアーの紹介とお誘いのプレゼンテーション、東洋ライス(株)様とのコラボによる「金芽米・ロウカット玄米と地方の旨味を試食しよう」でともに連日行われます。抽選には、すさみ町の実習ツアー参加ペアチケットを提供いただきました。今回の参加を機に、海外からの実習ツアープログラムへの申し込み対応などWEBの改善も行っています。また、シアトルでの食の実習ツアー実現に向けた調査も行われます。

******************************************************

① 和歌山県高野町・かつらぎ町 2024年7月13日(土)〜15日(月祝) 2泊3日 世界遺産 高野山で調理実習!精進料理作り体験ツアー

② 福井県坂井市 2024年9月20日(金)~9月22日(日) 2泊3日 豊穣のめぐみ食材魅力ツアー

③ 高知県須崎市・中土佐町・土佐市・仁淀川町 2024年9月21日(土)〜23日(月)2泊3日  ローカルな食文化と魚に出逢う「どっぷり高知旅」第2弾!

④ 三重県伊勢市・多気町 2024年9月27日(金)〜9月28日(土) 1泊2日  三重県多気町農村ワンダーツアーごちそう留学「秋編」

⑤ 富山県魚津市2024年11月22日(金)~24日(土) 2泊3日  11月下旬は、ぶり・カニをはじめとした豊富な食材、味噌の寒仕込み、昆布養殖など、富山・魚津の豊富な魅力が出揃うベストタイミング。稀な地形が農林水産物にどのような特徴をもたらしているのか。山や海の恵みを味わい、熱い職人の方々から食文化や歴史を学ぶツアーです。

*********************************************

事務局より:

 前号に引き続き、食熱通信Vol4.をネットで皆さまにお届けいたします。季節も梅雨に入り、それに呼応して旬の食材もその加工プロセスも刻々と変化しています。参加者の声にも表れている通り、高い評価をいただいている現地実習へのご参加を是非ご検討ください。また、ご意見、ご要望がございましたらページ下のコメント欄、もしくはFacebook、メールなどにて遠慮なくお寄せください。

「熱中通信第4号」発行:食の熱中小学校事務局(一般社団法人熱中学園内)

公式サイト:https://shoku-no-necchu.com/

Mail to:hello@shoku-no-necchu.com

タイトルとURLをコピーしました