第76章 久米信行さんが期待するゲンダイ若者像
2年前に75歳になるタイミングで、「老いてからでは遅すぎる」(海辺の出版社)を出版し、1年前に76歳の誕生日から1年間で76インタビュー人の方々とインタビュービデオ付きのエッセイを書くことにした。
その最終章は、熱中小学校東京分校(校長:大久保昇 教頭:中田清史)の用務員である久米信行さんとなった。地方の大人の社会塾「熱中小学校」の先生は約300人、その7割が首都圏在住者であり、その方たちプラス首都圏在住の生徒さんで、2016年に墨田区に完成した「すみだ北斎美術館」で学校を開くことに決めた。東京は本校ではなく分校にしようと決めながらも残念ながら授業自体は継続できなかった。 その際、東京東信用金庫の澁谷哲一会長と一緒に汗をかいてくれたのが ‘用務員’ の久米信行さんだった。
久米信行さんは、地元墨田区では東京商工会議所墨田支部副会長、墨田区観光協会発起人理事、墨田区文化振興財団評議員、新日本フィルハーモニー交響楽団評議員、北斎コミュニティデザイン実行委員長として、産業・観光・文化の三位一体の地域振興に関わる。
東京の下町にあたる墨田区の中堅企業にベンチャーあふれる活動を促し、墨田区は人口増加が著しい。“何も無い“ と地元の人々が考えていた墨田を、「よそ者、若者、女性」を支援し続け変化させた十数年。その達成感で、熱中小学校活動と並行して地方の自治体への応用を模索してきた。
教育分野では、2006年から明治大学商学部兼任講師としてベンチャービジネス論、2017年から多摩大学経営情報学部 客員教授としてビジネスコミュニケーションを教えている。
2020年には墨田区で「iU情報経営イノベーション専門職大学」の創設に関わり、現在は専任教員でもある。ゼミでも、学生は地元墨田区の課題を発見し、企業や団体と共に課題解決の提案をする。
そんな久米信行さんは、「最近の若者は社会問題解決志向で起業する志がある」と話す。
大学には地方出身の学生さんもいるので、若い人達のこうした変化は我が国の新しい成長のベースになっていく可能性がある。
墨田区には東京東信用金庫の澁谷哲一会長という賢者がおられるとは言え「すみだ北斎美術館」の立ち上げ、そして少子化の中での大学の創立と、コロナ禍もあって苦労の連続だったはずだ。日本の嫉妬文化で、足を引っ張る人達もいただろう。どうやってそのストレスを解消しているのだろうか?
「正気を保つために禅からヨガまで古今東西の瞑想法や健康法を試した。それらを組み合わせた」(iU情報経営イノベーション専門職大学のプロフィールから)
そして、もう一つは趣味の仲間の存在だ。
久米信行さんは「情的向美心」という言葉で、美しいもの、美味しいものなどへの感受性と同好の友の存在が大切だと言う。たとえば、空に張られた電線の風景に美を感じ、撮影した写真をSNSで発信し続けて15年になる。「電線族」なる集団もあるという。
地方に行って、巨大な古木を見ながら、よくもこれだけの木が孤独で残ったと自分のことのように感慨にふけるのも地方に行く楽しみだという。
昨年「すみだ北斎美術館」の館長に澁谷哲一さんが就任され、同じ時期に東京に「食の熱中小学校」が開校して、墨田から発生した熱中小学校東京分校の再挑戦が始まった。
還暦を迎える久米信行さんは、美しいもの、美味しいものの背景にある、美術、芸術、食文化に対する「情的向美心」を追求して邁進し続けるのだ。
久米信行さんのインタビュービデオはこちら: