第74章 岸田徹さんが目指す「学歴から学習歴」重視の世界

 株式会社ネットラーニング代表取締役会長の岸田徹さんは、東京大学大学院経済学研究科博士課程を修了し、出版社勤めを経由して48歳でセコム(株)に入社する。

 博士課程に進んだ岸田徹さんだが、「東京大学経済学部の教授は東京大学博士課程卒業者のみ」というルール変更を求めて、東大民主化紛争の2年を経て民間企業に就職した。

 セコム(株)では創業者の飯田亮社長に認められて新事業開発部門の責任者としてネットワーク関係ビジネスに取り組む。その後、自社開発コンテンツを持つ小学校のオンライン教育システムを開発、販売するセコムラインズで社長を務めた。

 オンラインで、オープンな教育システム普及を目指して1998年、自ら株式会社ネットラーニングを創業した。

2020年萩熱中小学校授業時の記念撮影

 ネットワークを経由して学びの機会を提供する新規事業は一代で国内最大のネット教育事業を築き、今では日本の主力企業を筆頭に、延べ9,700万人が利用するリーディング企業に育ち成長を続けている。新規参入者がある業界での岸田徹さんの成功の秘訣は、まだ見えぬ先の読みをもって早く参入し展開するスピード力と継続する持久力だ。

 企業の社内教育システムやスキルを磨く学びの世界で、一貫してネットワークを使った新事業の国内、海外市場での創造に邁進してきたわけである。

 ビジネスとしては企業の社内教育が大きな比重を占める中で、岸田徹さんはAsuka Academy というNPOが提供する個人向け無料教育オンラインサービスにインフラや人材を提供する。

 MIT やイェール大学など、海外トップレベルの大学がネットに公開している講義を、日本でも日本語で受講できる社会貢献活動だ。

 世界のオープンな知識を日本でも利用可能にするこの活動、辛抱強く継続させて今では2,500名以上の翻訳ボランティアに支えられてコンテンツを重ねている。

 例えば、AIについて基礎的な世界の知識を求めてみよう。

  [MIT] AI の基礎 を日本語で無料で学ぼう

  [Google] はじめての AI コース Offered by Grow with Google (2022年改訂版)

 MITからは関連コースで、「フェイクとファクト」という3部作もある。こうしたコースは毎月増えてゆく。

 個人が励まされながら学習を計画的に進めるための日程計画を作る等、自発的な学びを励ますしくみの工夫が進められている。

 30年前、岸田徹さんは日本の最高学府のクローズドな教育や研究のやり方に反対しそこから飛び出した。グローバルが大学に求める一流の基準として「大学のオープン化」がある。誰でも学べる世界標準の進行に合わせて、今や日本の大学も教材のオープン化やネット教育に積極的にならざるを得ない。

 しかし、世界の競争力は、教える側よりも学ぶ人たちの積極性にかかっている。

 世界の若者や大人全員がスマホという学びの窓口を手にしている今、学ぶ意欲と、それを支え、励ますシステムの競走は大切なインフラになる。考える、学ぶことのプロセスを技術革新に沿って創造していかなければならない。このプロセスを含め、学習履歴を可視化し人材評価に活用できる世界。岸田徹さんの「学歴から学習歴」重視の世界へのトランスフォーメーションを目指す初心に揺らぎはない。

八丈島熱中小学校での遠足での記念撮影(前列右から3人目が岸田徹さん)

 さて、八丈熱中小学校の校長先生でお世話になっている岸田徹さんが八丈島に住まれてもう20年になる。

 岸田徹さんとは同世代の私が大学時代に読んで印象に残っている本に、大塚久雄著の「辺境の理論」がある。

 次の時代は、今辺境に居る人たちによって開かれてゆくという説だが、東京都の八丈町は首都東京の辺境の地。これからは地方から日本を元気にするという信念を感じるのだ。

岸田徹さんのインタビュービデオはこちら:

Asuka Academyはこちら:https://www.asuka-academy.com

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