第73章 宮島衣瑛さんの ‘Joy of Creating’ ―もういちど7歳の目で創る歓びをー
今から5年前、北海道更別村と総務省が主宰する「次世代 ICTの整備に向けた実証実験」参加のために、子供たちのプログラミング教育の指導者を探していた。
当時、小学校にプログラミング教育を導入する前夜ということでなかなか実践者がいなかった。
サンフランシスコのデザインマーケティングのベンチャーであった BTRAX Japan の日本支社長だった多田亮彦さんから、学習院の後輩ということで宮島衣瑛さんをご紹介いただいた。
当時、宮島衣瑛さんは学習院大学の3年生。高校時代から地元千葉県の柏市で CoderDojo Kashiwa というプログラミング教室を運営し、柏市教育委員会と活動をしていた。 赤坂のオフィス・コロボックルでお会いして、若いながら決断力のある彼に、次の週には北海道に飛んでいただいた。
それから5年が経過し、今は学習院の博士課程の後期課程で一貫して子供達とICTテクノロジーの活用について研究している、頼もしい26歳だ。
私とはなんと50年、つまり半世紀も歳が違うのだから(5年前もそうだったのだが)、彼の成長ぶりが嬉しくなる。
最近では、昨年2023年10月9日(月)に開催された GENEE (東京大学 エドテック連携研究機構 生成AIと教育環境研究プロジェクト)第3回シンポジウムに登壇された。
生成AIが登場し、父兄や先生の立場から、子供たちに使わせていいのか? 13歳以下は触らせてはいけない、というような議論がある中で、宮島衣瑛さんは危機感を持っている。
シンポジウムでは、新しい道具である生成型AIを教室で使っている経験から「創る歓び」という本質に立ち返ることを提起している。
「 ‘よろこび ‘ の中にはいろいろな課題を乗り越えたり困難な出来事に挑戦するプロセスがあり、そのプロセスを越えた先にたどりつける境地を「歓び」という。プログラミングに熱中している子供たちは、作ることのよろこびを感じている。これこそが教育におけるプログラミングの本質」
生成型AIの進化でやがて簡単に早く文章や絵を作れることになっていっても、創ることのよろこびを得られ続ける教え方が求められているということなのだ。
‘世界最年長のプログラマー’ 若宮正子さんの講演テーマは「私は創造的でありたい」。
創造的な生き方を継続するためには、進化するデジタルの力を貪欲に、しかし気軽に仲間と共に遊んでいこうと、呼びかける。
2023年12月5日、世界の15歳の子供の学力を計る国際学力調査の結果では、日本の課題であった「読解力」が前回の15位から3位に、「数学リテラシー」が6位から5位、「科学的リテラシー」は5位から2位に躍進した。その理由の中に、生徒のICT環境が進み、パソコンで受けたことやコロナ禍での学校対応が他の国より良かったことなどがあり、教育関係者はICT機器の大量導入の成果もあったと安堵している。
一方で、「自律的に学習する自信」の指標では OECD国で指標がとれた34か国中、日本は最下位だ。
自律的な学びができるには大人も子供も ‘熱中し、時間を忘れて打ち込んでしまった’ というような体験をどれだけ経験できるかにかかっている。
生成型AIは、どんな年齢の人にもトライするごとに新しい結果を返してくれる道具として進化してゆくだろう。それを楽しくトライできるということは、子供から老人まで、誰にも平等に開かれた新しい道具が登場したということなのだ。
私は、これまで創造的な活動と生成AIとは違和感があると感じていたが、とにかく触ってみようー50歳年下の宮島衣瑛さんと話していると素直にそんな気持ちになってきた。
宮島衣瑛さんのインタビュービデオはこちら: