第53章 坪田知己さんの「文章も料理も貴方自身の中の光るもの探し」
坪田さんは熱中小学校の「名物おじさん教諭」として人気がある。
文章の書き方を教える先生として「21世紀の共感文章術テキスト」という、日本経済新聞記者時代から営々と磨いてきたノウハウを惜しげもなく各地で開陳し教えてきた。授業の後で、熱心な生徒さんから2000字くらいの文章が送られてくると添削までやってくれる。
坪田さんのFacebook投稿は、食生活、あるいは入院、食と健康に関することが多く、ぜひインタビューにと、熊本県ひとよし市まで追いかけていった。
授業のイントロは、生徒を2人ずつ組ませての他己紹介から始まった。アウトプットは相手の特徴に ‘見出し’ を考えてつけること。
個性的な例として紹介されたのが、「飴色の男」。
カレーを作るときに、細かく刻んだ玉ねぎを飴色になるまで炒めるのがコツという、カレー作りが好きな男性への‘見出し’の表現だ。なるほど、坪田さん、料理はカレーがお好きなんだ。
十数年前から台所に立って、毎日自分の食事を作り始めた。
お酒のせいもあって血糖値が高くなって、入院されて、退院後は脂肪や糖分量をコントロールしながら野菜の多い食事を心がけている。
カレーは、ある日南インドのケララカレーにはまり、ご自分でもパウダーを揃えて料理をするようにまでなった。
料理も、決まった手順からやがて割り切り自分流のものが出てくるものだ。文章も料理も、限られた素材を使って、自分の直感でシナリオを作って短時間にまとめ上げていく創作品であることには変わりがない。
坪田さんの人気の秘密は「言い切る力」ではないかと思う。
インターネット黎明期にマルチメディア研究の先陣を走り、大学研究者とのパイプを作りながら古い新聞社の体質と戦い続けた。学会、デジタル企業などの人脈はやがて新聞社変革の力になってゆく。
「現在の日本経済新聞の独り勝ちはデジタル力の差。昔、紙の新聞がなくなる時代なんて絶対来ない! なんて言っていた連中が多くて困ったものでした」
その坪田さんがこれから書きたいテーマは「文明論」。
「熱中小学校の授業は自分のやる気の大きな部分を占めている。文明論の本を書いて、熱中小学校の生徒さんに読んでいただいてワークショップでもやりたいな」
そのために今、精力的に本を読んでいるという。
「私の歳になって、夫婦で海外旅行が目標とか言っている人たちの気持ちがわからないですね、僕なんか自分ユニークな人生のアウトプットを言葉で表現しないとやっていけないです」
坪田さんの文章術のテキストの最後に「稿中八則」がある。その第一則は、
「一生の道具になる文章力は、あなた自身があなたの中に作るしかない」
「文明論」の出版が楽しみだ。
そして、坪田さんのケララカレーも食べてみたい。
坪田知己さんのインタビュービデオはこちら: