第38章 前田茂雄さんには ‘十勝晴れ’ が良く似合う
2018年8月に日本から熱中小学校関係者94人が、シアトルでの Japan Fair に阿波踊り隊を結成して参加した際に、シアトル側の先生として前田伸二さんの授業があった。前田伸二さんは、米航空機メーカーのエンジニアを務めるかたわら、現役のパイロットでもある。日本大学航空工学部に通っている時、バイク事故で右目の視力を完全に失ってしまい、日本でパイロットになる事は出来ないことをあきらめきれずに、米国に渡る。
米アリゾナ州の航空大留学時代、米国では片方の目しか見えなくてもパイロットの試験を受けられることを知り、猛勉強の末、自家用操縦士免許を取得した。この不屈の精神を話す授業している前田伸二さんは、北海道十勝の本別町出身で前田農産食品株式会社代表取締役の前田茂雄さんの弟さんだ。
日米で、ご兄弟で熱中小学校の先生をやっていただいていたのだ。
北海道本別町の畑を長男として継ぎ、現在では140ヘクタールという大規模農業を行う前田茂雄さんも米国との関係は深い。東京農業大学農業経済学部を卒業後、2か所の米国大学にて農業経営・流通を学び、多くのアメリカ農家との出会い大規模農業実習を体感している。小麦5品種、甜菜、ポップコーン栽培。そして今は農閑期=付加価値創造期間として活かす付加価値型経営を目指すことに集中している。
「通年で安定して人を雇うには冬場の仕事を考えなければならなかった。また季節変動性ある農業収入の多角化をしたり、新畑作輪作体系確立に」ポップコーンの栽培を開始する。
3年間の失敗を経て 2016年4月より国産初の電子レンジ専用の “北海道十勝ポップコーン” を商品化した。この間、壁にぶつかる度に前例のない日本から渡米しては関係者探しをしてきた。前田兄弟の共通点は未知なるものでもとにかくぶつかって行く、‘天真爛漫’ の才能だ。
前田家は120年以上前に入植して開拓した広大な土地を農地解放でほとんど失いながらも、土地を小中、高校の学校敷地に提供する。トウモロコシ畑でバカ広い迷路を作って土地の魅力づくりを考える。お爺さん、お父さんのおおらかさ、遊びの精神文化は茂雄さんにも伝わっていて、ほんべつひまわり迷路を開催している。
前田茂雄さんは、ポップコーン工場を案内するときはとても目が輝いている。
乾燥システムなど、製造プロセスについても自己流の創意工夫があって、工場は進化を続けている。大型耕作機械の扱い、整備と製造プロセスの管理もまた似た才能の力のようだ。
さて、前田茂雄さんのインタビューは、私が東京で「食の熱中小学校」を立ち上げるために、先進の十勝でのスタディーが目的で、帯広市に着いてからのアポ取りで翌日の訪問だった。
新しいタイプの学校の立ち上げでいろいろ難儀していて、少し疲労気味だった。
前田さんが10ヘクタールの小麦畑に椅子を並べてくれた。
この十勝晴れの下で、前田さんは一生懸命、若い農業家をもっと外国に出して農業の見聞を広げさせる必要性を訴える。
先祖代々、開拓の歴史は後継者の育成と期待の道だったに違いない。麦畑の横に、前田家が土地を提供した学校がそう語っている。
白雲がたなびき、気温も温暖、風は微風。
もうこのままずっとここに座っていたい時間が静かに過ぎて行った。
前田茂雄さんのインタビュービデオはこちら: