第25章 モリウミアスとともに「たくましく生きよ」―立花貴さんとこどもたち

 2011年3月11日の東日本大震災で沢山の日本人の運命が変わった。立花貴さんはその意味で私が尊敬している50代の日本の新しいリーダーの一人だ。

 当時縁あって、石巻市雄勝町でボランティア活動に参加して、何度も立花さんが運転するバンで往復乗せていただいた。その時彼は、

「雄勝町は震災で、人口の約8割が減少したが、これは日本の過疎地域の20年後の姿が一気に時間軸を前倒しにして、目の前に現れたということだ。日本のモデルとなるような、持続可能な地域づくりのために、ここで踏ん張りますから支援してください。雄勝と向き合う時間から、私たちの未来が見えてくる」

と話されて、ほどなく順調に進んでいた東京での総合商社のキャリアを捨てて雄勝町再建に邁進、震災後に雄勝町に移住した。

2011年11月当時のオーガッツの末永さん、立花さん(右端)と平ら貝の養殖体験に参加

 東日本大震災の被害を受けて、かつて約4,300人だった雄勝町の人口は1,000人以下まで減ってしまった。その雄勝町を中心に、築100年の廃校をリノベーションした、循環する暮らしの体験施設「MORIUMIUS(モリウミアス)」を、2015年7月石巻市雄勝町にオープンした。

「MORIUMIUS」は、森と、海と、明日へという意味と、USには私たちという意味が込められています。「私たちみんなで持続可能な社会を作る」という活動の総称でもあります。1923年に創立され2002年に廃校となった桑浜小学校を修復・改装した、こどもの複合体験施設。2013年4月から約5,000名のボランティアと卒業生である雄勝の人々によって、2015年にモリウミアスとして生まれ変わりました。木造建築を活かしたデザインは建築家、隈研吾氏を中心に世界中の建築学生と考えたもの。「循環する暮らし」をテーマとし、モリウミアスでは、森と海、田畑でサステナブルな暮らしを体験する場として、日本のみならず、世界中からこどもたちが集まっています。また、震災に遭いながらもたくましく生きる雄勝の人々との交流が生まれています。(MORIUMINUS WEBから)

 昨年2022年4月からは1年単位でこどもたちが暮らすモリウミアス漁村留学もスタート。
 主に都市部に住む小中学生が1年間親元を離れ、雄勝町の小中学校に留学生 ( 転校生 ) として通いながら寮での共同生活を送る取り組みで、公教育とのハイブリッド型の学びの場が誕生している。公益社団法人MORIUMIUSはNPOでありながら、PL(損益計算書)部分は、寄付や助成にあまり頼らず、宿泊費と体験料・研修費で収益をうみ、自走型で運営をしているのも特徴的だ。ここで働きたいと思う、持続可能な雇用を生み出す事業を作ること、多様性ある環境を作り出すことで地域の未来の景色が変わっていくと信じているのだ。

全国の熱中小学校で授業をしていただいているが、写真は2021年、熱中小学校丸森復興分校

「たくましく生きよ」これは、東日本大震災で大きな被害を受けた石巻市立雄勝中学校でその時新たに定められた校訓だそうだ。その雄勝中学校の跡地で ‘リジェネラティブな農業’(有機物が豊かな土壌を古来の方法でつくり、CO2を貯留し、気候変動を抑制することを意識した農法)を通じて、生物多様な場をたくさんの人とともに学びながら育んでいこうと一歩を踏み出すプロジェクトがこの4月から始まった。クラウドファンディングもスタートした。
 https://readyfor.jp/projects/moriumiusfarm
 ここが、いずれワイン用のブドウ畑に生まれ変わるまで、こどもたちの学びの場から産業創出の第2ステージに入ろうとしている。

 今月は私がよく知る自治体の長の選挙がいくつか行われる。第15章で登場いただいた、和歌山県すさみ町もその一つだ。

 すさみ町の岩田勉町長は、人口3,000人の小さな町が和歌山県の自治体で数少ない転入者がプラスで、それも接する自治体からの移動増ではなく、他県から、特に都市部からの移住でプラスになっているのが自慢だ。
 今全国の自治体で税金や交付金、ふるさと納税資金等を使って周りの自治体と、子育て環境で競争して周辺住民の移動を促すことが行われている。これは、全国的な人口減少対策の解決策の本道ではなく、自分の地域の最適化になりがちだ。隣が、小中学校の給食を無償にしたのに、うちはやらなく良いのか?というような競争が右に倣えの国民性と共に全国で闊歩する。

 その意味で、立花貴さんが仲間と2011年の東日本大震災以後、一貫して行っている ‘こどもの成長をふるさとの再建とともに進める’ スタイルは、ユニークでかつ奇跡的な事例だ。
 こどもの育てる環境で、経済的な面を否定するわけではないが、そのこどもたちが我が町で何を学ぶのか? 彼らの人生を渡ってゆく上の力や知恵を提供できる大人たちがいる土地なのだろうか? 横並びを考えていては共倒れだ。

 立花貴さんの志の横展開とは、大人こそ ‘もういちど7才の目で世界を’ 見ながら、新しいことに挑戦を続けることだと思い、いつも勇気づけられる。

立花貴さんのインタビュービデオはこちら:

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