第15章 ‘すさみの美術大学を創ろう’ ―山崎和彦教授と岩田勉町長による、和歌山県すさみ町と武蔵野美術大学の挑戦

 和歌山県すさみ町の岩田勉町長ほど顔の広い自治体の長は珍しい。

 すさみ町は南紀白浜空港から東北に車で30分ほどの風光明媚な港町で、人口はわずかに3,600人余り。人口の自然減では他の自治体同様減少傾向だが、他県からの移住など社会人口増という尺度では人口当たり突出したプラスの町だ。

 岩田さん自身、かつおのケンケン釣りの漁師をへて町長になった方で、獲物を見つけて必ずや捕まえる能力、は素晴らしく早い。私も釣りあげられた一人だ。

 すさみ町との出会いは「紀州くちくまの熱中小学校」が和歌山県上富田町を拠点に周辺自治体を授業実施対象にしていて、すさみ町もその一つだった。 2年ほど前に「紀州くちくまの熱中小学校」が、周辺自治体の長といわゆる ‘スーパー公務員’ との遠隔討議で、岩田さんがスーパー公務員の存在自体に否定的で役場全員参加のまちづくりに拘った発言を聞いて興味を持った。やがて「紀州くちくまの熱中小学校」の長井教頭などと新鮮な魚と日本酒を飲んで語り合う仲になった。

右から 山崎和彦武蔵野美術大学教授、長井保夫プラム食品会長、岩田勉すさみ町町長、坂口唯之すさみ町副町長、堀田一芙(すさみ町岩田町長の自宅で)

 武蔵野美術大学の山崎和彦教授は日本アイ・ビー・エム(株)時代、‘ ThinkPad ’ のデザインの責任者だった。私がPCビジネスを担当したご縁で長い付き合いだ。「熱中小学校」では ’ 図工 ‘ の教科を担当していただいている。

 2022年には、私が代表理事の一般社団法人熱中学園が、すさみ町で国のデジタル田園都市構想の実施団体に採択されて、ウェルネスツーリズムの開発や、武蔵野美術大学との産学共同プログラムなどを現地で実施し、お二人と一緒に飲む機会がさらに増えた。

武蔵野美術大学では産学共同プログラムとしてすさみ町でフィールドスタディを行った

 2023年、武蔵野美術大学との産学共同プログラムは修士と学部生の約30人が参加。3週間の滞在の後 10月17日に岩田町長宛最終報告会が行われ、学生さんの自由な発想がすさみ町の温かい町民の中で育まれたことが伝わってきた。‘自然と人情’ の環境が創造的な自由な時間を醸成する。

 どんな世代にでも、これからの日本に必要な旅は、人が共に考えながら、助け合いながら築いていく、ぬくもりがある、自由で創造性豊かな場で生まれるものではないだろうか。

 雄大な自然を前にして、参加者は素直な気持ちで新しい価値観を受け入れようとし、そこに都会にはない人の情が加わると ‘もう一度訪れたい場所’ になってゆく。

 ここ数年「地方創生」のテーマは、‘移住・定住’ から ‘関係人口の増加’ に移ってきたが、岩田さんはこの言葉に少し違和感をお持ちのようだ。

「観光プラスで終わってもいいのだけれど、もっと一緒に町の問題に継続的につきあってくれる人達を探したい」

岩田町長の愛車は漁師町の細い道でも入っていけるホンダのスーパーカブだ

 武蔵野美術大学はその後すさみ町と提携し、学生さんたちは2023年1月に「一般社団法人すさみの美術大学」をすさみ町に設立した。そして2月23日から3泊4日でデザイン系の社会人の「すさみ会議」も行われている。

 創造的でありたい人が集う、ウェルビーイングなセミナー環境を目指して、岩田町長と山崎教授の試行錯誤が始まった。

2023年2月の X-デザインの合宿、キックオフ BBQ

 山崎さんはデザインにおける体験の重要性を学ばせる、‘ X-デザイン ’ という研究と学びのグループを運営している。

「体験をデザインすることは、自分自身が経験することからスタートします。そのためには自分がまず新しい体験にチャレンジする、やってみる、するとうまくいかない。そのすさみ町での体験をどう生かしてくれるか。町民との交流も行っていけるすさみ町ならではの体験デザイン合宿によって町の課題解決をテーマにして参加者の作業を合宿形式で行っています」

 その後の進展は、岩田勉さん山崎和彦さんの対談ビデオ(2023年2月23日撮影)でご覧ください。

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