第4章 阿武隈急行車内でクラシックコンサート。世界を飛び回る碓井俊樹さんの “楽しい” 基準とは
横浜シンフォニエッタの碓井俊樹代表理事は、年間飛行機に200回以上も乗りながら機内で楽しいアイデアを考えては必ず実行してしまう人だ。海外と日本の各地を行ったり来たり、点々としながらも必ず思いついたこと、まさか!ということをいつもの笑顔でこなしていく。
2022年9月に「熱中小学校丸森復興分校」の授業としてピアノ演奏をお願いした。その時無人駅であるあぶくま駅の踏切をグランドピアノが横切って、駅前の伝承館に吸い込まれていき、木造の立派なスタジオになったのだが、その時に鉄道マニアの碓井さんから ‘電車の中で演奏会’ 面白そうですね、との話があった。
校長先生の菅原さんが阿武隈急行の社長様というご縁から、移動中の電車内演奏の話でとても盛り上がったのを覚えている。
一方で、生徒会では2023年1月20日に福島市に碓井さんが横浜シンフォエッタと来ているのなら、翌21日に丸森町で0歳からの子供たちに生の素晴らしい音楽を聞かせたいという企画が進行していった。
子供達の音楽会は具体化して行く一方で、電車内の演奏はそれから音沙汰がなかったのだが、なんと実行2日前に菅原社長に ‘やりますよ’ と碓井さんから連絡が入ったそうだ。
しかしそれからの阿武隈急行の社員さん達の対応は早い。
前夜の車内見学、近隣の幼稚園児の招待、メディア告知とてんてこ舞いの動きで一気に実現してしまう。
オーケストラのメンバ―5人(バイオリン、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット)が、福島発梁川行きの往路は5つの楽器を子供たちに説明演奏をして、復路ではモーツァルトの「きらきら星」など6曲を演奏した。
翌21日の午前中の0歳から1歳、1歳以上の2回の演奏会を親子にしっかりと聞かせ、私のビデオインタビュー、昼食会を終えて、午後の仙台発のフライトで福岡に去って行った。
2日前の話とはいえ、実は彼の中ではイメージは長い移動中に少しずつ育っていて、完成度が高く、いざという時の現実的な選択案もあって実効性があり、かつ割り切りが良いので実現してしまう。実行する方も乗りやすいのだ。
車内演奏会のビデオをよく見ると、碓井さんが車掌室から子供たちに ‘これから演奏者が入場’ とマイクを持っている笑顔のシーンがある。
これだ、彼はこの瞬間が楽しみでやってみたかったのだ。鉄道マニアで音楽家といえども、列車内で音楽会の司会をやったのは世界広しといえども自分しかいないーしかも車掌室からアナウンス! 突拍子もないことを実現する人は、実はちょっとしたことをどうしてもやりたくて執着しているうちに、皆が驚くことをやってしまった人たちなのだ。
碓井俊樹さんのインタビュービデオはこちら: